奥穂高岳 ~白出の魔女が笑っていた~
魔女が笑う
雪渓に別れを告げ、浮き石に足を取られないように一歩一歩慎重に登っていく。また下山パーティーに出会った。今度は若者3人だ。下りなのにかなりきついようだ。先ほどのパーティーからも同じアドバイスをもらったのだが、その中で山荘からここまで下るのにかかった時間を教えてもらった。登りの目安としては、下りの時間×2となりそうだ。とにかくマイペースでゆっくりと登るしかない。
白出の魔女が笑っているようだ。ここはお前のようなヘタレが来るところではないと。
見上げると遙か彼方に白出のコルが見える。必ず登ってやるぞ。
白出のコルが見えてきた。あそこに穂高岳山荘がある。しかしこのガレ場をまだまだ登らなくてはならない。
沢を振り返ると、豆粒ほどのパーティーが下っていくのがかろうじて見える。しかし平日とはいえ、このルートは登山者は少ないようだ。槍ヶ岳に向かう飛騨沢でも感じたのだが、目標が近くなるとちょっとづつ元気が出てくる。あちこち散らばっていたペンキマークもようやくつながるようになってきた。しかし相変わらず足を乗せると石は動く。
白出のコルの右手にキラリと光るものがある。なんだ?あれは? しばらく進むと、どうやら風車のようだ。山荘の風力発電用のものであろうか。ルートは左側へ向かっている。陽を浴びながら、あと一頑張り。
笠に雲の「笠」がうまい具合にかかっている。
雪渓がどんどん遠ざかる。こうしてみると、沢もわずかにカーブしていることがよくわかる。
さっきよりは近づいた。あちこちに離れていたペンキマークも少しは続いてきたようだ。
山荘まであと少しだ。コルの右に立っているのは風力発電の風車のようだ。
雪渓もここから見れば遙か彼方。沢の上部から陽が差してきた。
ようやく、ようやく着いたぞ。何とか魔女を黙らせただろうか。