奥穂高岳

奥穂高岳 ~白出の魔女が笑っていた~

アルプスの沢に散る?

林道からはずれ、本格的な登山道となる。とはいっても、急登ではなく、雑木林の中のなだらかな道だ。草もキチンと刈り取ってあり、かなり整備された歩きやすい登山道だ。しかし辺りは真っ暗。ヘッデンだけでは絶対的な光量が少ないため、手に持ったハロゲンライトで行く先を照らし、確認しながら進む。これも昨年の経験が効いている。たまに草むらからガザガザと音がしたり、かすかにうめき声(?)のようなものも聞こえてくる。こちらは絶えず熊鈴を鳴らして自分の存在を伝えているつもりだが、うめき声らしきものが獣だとしたら、彼らも自分の存在を示しているのかもしれない。・・・と勝手に想像しながらどんどん先へ進んでいくと、うめき声もすぐに止んでしまった・・・気がする。

1時間ほど経っただろうか、左手から水の流れる音がだんだんと大きくなってきた。登山道も足元が悪くなってきたので、慎重に進む。急に道が細くなり、前方にゴロゴロと横たわる大きな石群に出くわした。どうやら沢に出たようだ。
沢に下りてみる。これまでのパターンだったら、どこかにペンキマークかリボンがあるはずだが、辺りを見回しても全く見あたらない。念のためいくつか石を伝ってみるが、辺りはまだ真っ暗なため、どちらへ行けばいいのかわからない。水が流れるゴーッと流れる音だけが真っ暗な中に響いている。

あれ? 重太郎橋に着いたんだろうか? それにしては橋が見あたらない。もしも重太郎橋があるのなら、沢の向こうの岩壁に岩切道に登る梯子があるはずだ。しかしライトでくまなく照らしてみるが、どこにも見あたらない。ルートを間違えたのだろうか。沢から来た道をちょっと戻ってみるが、間違いではなさそうだ。
意を決して沢の石を伝ってちょっと上流に上ってみる。と、すぐに木製の角材で作られた橋を見つけた。ああ、これが重太郎橋だ。となると、沢向こうを照らしてみると、はっきりと岩切道へ上る梯子も確認できた。まだ日の出前で周りは暗いが、とりあえずは一安心。

  
奥穂高岳

重太郎橋。想像していたものよりも立派だ。これが流されると自力で沢を渡らなければならなく、危険極まりない。

奥穂高岳

岩切道へ上る梯子。木製だが、上部はアルミ製のものが足されている。ここもさほど危険ではない。

奥穂高岳

梯子を上った先から岩切道のトラバースが続く。鎖が設置されているが、足元の岩が濡れていると非常に危険。


重太郎橋を渡り、岩切道への梯子を上る。ここから先は岩切道を進む訳だが、足元の岩が濡れて滑りやすくなっている。滑落したら一巻の終わり。ここはしっかりと鎖やロープに頼りながら慎重に進む。しばらくはトラバースが続くが、予定どおりに辺りが明るくなってきた。やはり辺りが見渡せると精神的にも安心できるね。右手に見えるのは白出大滝かな? 途中でライト外す。しかし思った以上に寒い。

  
奥穂高岳

岩切道から見えた白出大滝。この頃になると辺りも明るくなってきた。

岩切道をひたすら上っていくと、右手に小さな沢が近づいてきた。そろそろ鉱石沢を渡るんだろうか? 穂高岳山荘のサイトの情報によれば、鉱石沢付近はかなり荒れているようだ。沢の向こうにかすかに小さな角材らしきものが立っている。あれがルートだろうか? しかしこちらも踏み跡らしきものが続いている。しばらく登っていくと、足元がとてつもなく荒れた急登になってきた。これはちょっとおかしい。地図で確認してみたが、どうもルートを間違えてしまったかもしれない。
急いで戻ると、鉱石沢の標識が倒れていた。なぜ気がつかなかったのだろう?
疲れていると注意力も散漫になってくる。しかし早く気付いてよかった。やはり沢の対岸に見えた角材がルートの印だった。

  
奥穂高岳

鉱石沢の標識は倒れていた。下調べをしてわかっていたのに見逃してしまうとは・・・

奥穂高岳

岩切道から鉱石沢を渡ったところで振り返る。情報どおりかなり荒れているな。

奥穂高岳

危うく鉱石沢を登るところだった。こんなところに迷い込んで落石があったらひとたまりもない。


鉱石沢を無事渡り、次の目標は荷継沢だ。しかし思いがけないアクシデントに遭った。鉱石沢を渡ったところからルートがこれまでになく急登となった。睡眠をほとんど取れていないのに加え、登山口からまともに休憩を取ってなかったり、迷ったりしてかなり体力を使っていたせいか、登り切る前に足が止まってしまった。今回のルートで一番きついところはこの先の荷継沢出合から白出のコルへ登る直登。しかしそこに到達する前にバテてしまうとは・・・本当に山頂はおろか、山荘までも辿り着けるのだろうか?

  
奥穂高岳

急登を登り切ると、前方に荷継沢が見えてきた。

奥穂高岳

切れ立った山は方向からして西穂からの縦走路だろう。

  
奥穂高岳

ようやく荷継沢に着いたが、既にかなりの体力を使ってしまった。

こんなところで無理をしても後が絶対に続かない。ここは一歩一歩ゆっくりと進む。ようやく登り切った向こうに大きな沢が現れた。恐らく荷継沢だろう。小さく標識も見える。荷継沢を横切った向こうには白出のコルに向かう沢が続いている。沢の上部には西穂から続いている険しい山々が見えるぞ。

目標物が見えるのはいい。ようやく荷継沢出合の標識に着いた。荷継沢を渡る前にザックを降ろして深呼吸。辺りはとても静かで誰もいない。そう、このルートはここからが本番なんだ。


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