奥黒部周回

奥黒部周回三日目 ~絶景一転罰ゲーム~

どちらへ行けば・・・?

  

温泉沢ノ頭を後にして高天原に向けて下っていく。しかし下りは必要以上に痛めた爪先に負担がかかる。しかも悪いことに、ルートは急坂且つ滑りやすいザレ場だ。踏み跡に沿って進むにしても、下手にその方向に行くとズルズルと滑っていってしまう。迂闊にも石を転がしてしまうこともある。幸いルート上は誰もいないのでいいのだが、いつ何時上から落石があってもおかしくはない。まずは先に見える樹林帯に入るまで、と目標を立てるがなかなか足が痛くて進むことができない。
ルートは温泉沢ノ頭からの支尾根に続いていると思ったが、地図をよくよく見るとその尾根の北側の谷に入っていくようだ。なるほど、途中で温泉沢に合流して沢伝いに下っていくのだろう。

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ザレたルートを下っていく。薬師が応援してくれているが、爪先の痛みは増すばかり。

  
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あまり下ってはいないのだが、赤牛からの稜線を見上げてみる。今日の累積標高差はかなりあるだろうな。

  

先を見下ろすと沢が見えている。どうやらあそこが温泉沢で、ルートは右側からぐるりと回って合流するようだ。
何とか爪先の痛みを我慢しながらザレ場を抜ける。しかし樹林帯の中に入っても下りは続く。ここまでは急なザレ場はあったにせよ、踏み跡もしっかりしており、破線ルートとまではいかないなと思いつつ、ゆっくりと沢に向けて下っていく。かすかに水の流れる音が聞こえてきた。もうちょっとなので頑張ろう。

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沢が見える。恐らくあそこまで下りていくのだろう。

  
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紅葉も楽しんでいる余裕がなくなってきた。

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樹林帯の中におおきなキノコ。そういえばこれまでたくさんのキノコを見てきた。

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手前にもキノコ。食用可かどうかはわからない。


  

痛みと闘いながらひたすら下り、ようやく温泉沢に合流した。沢の上流を見上げると、恐らくあの稜線から下ってきたのだろうと感心してしまう。しかし思った以上に体力も使った。ここでザックを下ろして休憩。後は本当に沢に沿って歩くだけだと思っていたが、この先に最後の試練が待っていた。
ザックを担いで再度歩き出す。沢の石に記されているペンキマークを辿りながら岩を伝って進んでいく。時には対岸にペンキマークがあるのを見つけ、石の上に乗ったり、時には浅瀬を渡ったりしていく。ところが・・・ペンキマークがとんでもないところにある! あそこへ行くにはどう考えても沢の中に入らないといけない。しかも流れは結構急だ。下手に沢に入って転倒してもいけないので、そのまま対岸を歩いていく。

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温泉沢に合流した。見上げる稜線から一気に下ってきたんだね。

  
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ここが温泉沢への合流地点。沢を登ってくると見落としがちだが、ロープが張ってあるので大丈夫。

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一旦ザックを下ろして小休止。足がパンパンだ。

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あとは沢を下るだけ。この時点で水量は僅か。

  
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だんだんと水量が増してきた。沢を渡るにも渡れない。

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何とか浅瀬を見つけて半ば強引に渡る。方向はこちらで良し。しかしこの後、悲惨なことになろうとは。


  

水量も流れも普通に渡れる範囲ではなくなってきた。目の前は歩くところがなくなっている。仕方なくちょっと戻り、足が沈まないくらいに足を乗せることにできる石を探して強引に沢を渡る。しかししばらくするとこちらも進めなくなってきた。高巻きしようにも激薮漕ぎになってしまう。ここはギリギリのところで木々を掴みながら深みに落ちないように進む。こんな状況で先へ進めるのだろうか、心配になってきた。
再度同じ要領で沢渡りを繰り返す。しかしとうとう手詰まりになってしまった。もう靴と靴下を脱いで渡ろうかとも思ったが、どこも流れが早い。沢の中で転倒したらただじゃ済まないしね。でもってちょっと先を見ると、ちょっと木を掴んで高巻きしてみると何とか行けそう。しかしその木は枯れて白化している。何度も掴んだり引っ張ったりして大丈夫なのを確認してから半ばぶら下がるような感じでよじ登っていく。最後はほぼ転倒するように安全ポイントに到達。なんだよ~まるで罰ゲームじゃないか・・・と思わせる程のサバイバルっぷりだ。
そろそろ右手の尾根も低くなってきた。この尾根が落ちる所が温泉のはず。そういえば一瞬だが硫黄の匂いもしたっけ。と、安心するのも束の間。最後の最後にとうとう動けなくなってしまった。もうここは覚悟を決め、片足を沢にザブンと入れて渡る。濡れはしたが、転倒しなかっただけでもいいや。
チンした後は明確な踏み跡が続いており、ようやく温泉が見えてきた。既に時刻は15時半。ここから山荘へ登っていくと16時だ。これ以上遅らせたくないので、残念ながら温泉はパス。それよりも水が無くなってしまったので、とにかく水を補給する。温泉は3人ほどが入浴していた。気持ちいいだろうなと思っても、ここで温泉に浸かったらそのまま寝てしまうかもしれない。
水を補給後、ボロボロの状態で高天原山荘に向かう。途中で温泉を楽しんでいた若い男性が抜かしていくが、山荘はすぐそこなのでと声を掛けてもらう。これだけでもちょっとだけ元気が出るね。しかし罰ゲームの後の登りはシンドいな~・・・。

  
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いつもより水量が多いかどうかはわからないが、この流れで渡河は危ない。ペンキマークを辿ることができないのを見ると、やはり多少は増水しているのだろう。最後は足を沢に沈めて渡る。足の痛みも忘れていたくらいだ。

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本来歩くべきところは対岸なのだが・・・。

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ちょっと戻って渡れるところを探す。

  
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白濁した露天風呂あり、まさに秘境の温泉だ。

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通称「からまつの湯」。脱衣所の中にも湯船があるが、湯に浸かる気力も失せてしまった。ここはまたいつか来るかな・・・。


  
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予定時刻を大幅に過ぎてしまって何とか高天原山荘に到着した。3日目にして本当にフラフラだ。
今日の宿泊客はどれくらいだろうと思いチェックインする。山荘スタッフから2階に上がってくださいと言われるが、どこの布団なのか聞くと、今日は宿泊客が少ないのでどこでもいいとのこと。あれ? 土曜日だというのにちょっと拍子抜け。改装直後の山荘でもこんな状況なので、やはり9月の客が少ないのは本当だった。

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今年の7月に改装工事が終わった高天原山荘。収容人数50名の小さな山荘だが、広い2階の宿泊所は快適すぎるほど。

  

そして食事。ランプの灯りが心地いいい。今日の宿泊者は6名ほどだが、夕食でテーブルを囲んだのは自分を入れて4名。
メニューがこれまた凄い。おかずの天ぷらやお吸い物に使われているキノコは山で採ってきたばかりのもの。美味いものばかりだ。そしてなぜか小さな容器にカレールー。どうやら太郎平グループのスタッフにアジア系の外国人がいて、その方の特製スパイスを使ったカレーだそうだ。これまた美味い。そして魚の形をしたゼリー。どうもここらで湧いている「幻の水」というのがあり、その水で作った「水ゼリー」だそうだ。そして幻も水はごはんを炊くのにもお吸い物にも全て使われているらしい。圧力釜で炊いたご飯はもっちりとしてとても美味しい。ここまで来てテン泊もいいけど、この夕食を食べなきゃちょっともったいない気もする。なんか奥深い山荘に来て、こんな豪華な食事にありつけるとは思ってもみなかったよ。

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今日も静かな山荘に泊まることができてよかった。偶然とはいえ、これはこれで運がいい。


  

そして他の3人と恒例の山談義。いろいろ話を聞くと、共通しているのはみんなソロ山行で、やはり相当の強者だということ。その中の一人が明日温泉沢を温泉沢ノ頭まで登っていくという。沢の状況や今日下っていったことを話すと、ちょっと心配そうな顔をされていたけど、いやいや、大丈夫でしょう。
そんな自分は明日が最終日。これまた日の出前に出発し、大東新道を歩いて薬師沢小屋へ、更には太郎平小屋へ向かって折立に戻るという行程だ。また明日は天気が崩れるかもしれないとのこと。今日が一番疲れたけど、晴れていたので明日は悪天候でもいいか。とにかく無事に折立に下山することだけを目標としよう。

4日目 高天原~薬師沢~折立「奥深い山域」に続く)


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