奥黒部周回一日目 ~雨と風の稜線~
明けの明星
いつもの如くほとんど仮眠もできず、出発時刻2時に合わせて準備にかかる。登山口は駐車場からはすぐそこ。登山口には折立ヒュッテと呼ばれる休憩所があるが、建物の中には鍵がかかっていて入れない。あとキャンプ場があるせいか、24時間のジュースの自販機もある。
前回の中央アルプス周回時にこれまで使っていたヘッデンがイカれてしまったため、今回は新調のヘッデンだ。これがまた明るいこと。ナイトハイクには心強い。念のため獣に襲われても頭を守るためにヘルメットを被っていく。
出発時刻になった。山に向かって一礼。ここから初めて四日間の山行が始まる。まずはいつも通り慎重にゆっくりと。
「薬師岳登山口」と書かれた登山口。今年の北アルプス山行のスタート地点だ。
山に不似合いな自販機。下山時に一気飲みしそう。
AM2時にスタート。さて、無事に帰ってこられるか?
道はいきなりの急登。昨日までの雨のせいか、所々ぬかるんでいるのでちょっと歩きにくい。所々木の根が張り出している所がえぐられている箇所もあるので転ばないように慎重に登っていく。途中、アラレちゃんの看板のところで小休止。真っ暗な中の休憩は緊張するが、今のところ獣の気配はない。
再出発してしばらくするとちょっとした広場に出た。三角点のある1,870.6mポイント。アラレちゃんのところからさほど時間も経っていないので、そのまま先へ進む。この先道はフラットになったかと思うと、石が敷き詰められた石畳の緩やかな登りとなっていく。
アラレちゃんの看板で一休み。暗闇の急登は疲れる。
1,870.6m三角点に到着。まだ休憩するまでもなし。
近くには木製ベンチがたくさん。ここまで一気に登ってここで休めばよかったかな。
空がちょっぴり明るくなってきた。向かう稜線の上方には三日月。続いて明るく輝く金星。明け方に見えるので明けの明星。ちょっと雲が流れてきたのが気になる。
空はまだ星がまたたいている。前方に横たわる稜線に向かってひたすら登っていくと、空に三日月が昇ってきているのに気が付いた。その下方には一際明るい星。あれ? 木星ってこんなところに見えていたっけ?
いや、方向は東。あれは金星だ。いわゆる明けの明星。三日月を追うように昇る明けの明星を見ることができるなんて天体好きにとっては何てラッキー。あれだけ明るい金星なんて久々見たよ。
空が明るくなってきた。相変わらずフラットで緩やかな登りが続く。途中でヘッデンとヘルメットをザックに収める。北の方角を見ると独特な山の形。おお、剱岳だ。休むこともなく再出発。ちょっとバテてきた。
勾配はさほど無く、フラットな道が続く。
左手、つまり北の方角を見ると剱岳。結果として今日の一番の絶景となる。
道は石畳に。ここまで整備されているとは。これもこのルートがよく歩かれる理由だろう。山道としてはちょっと味気ないが、安全に越したことはない。
まだまだ続く緩やかな登り。辺りが暗いとどうしてもペースが把握しにくく、今になってジワジワとボディーブローのように体に応えてくる。
かなりキツくなってきたが、太郎平小屋はもうすぐか。それ以上に雲がかなり厚くなってきた。そちらの方が余計気になる。
ようやく見えてきた太郎平小屋。ちょっとポツポツと降り出してきたか。
バテバテになりながら一歩一歩進んでいくと、小屋の屋根が見えてきた。あそこが太郎平小屋。実は登山届は太郎平小屋で提出するため、登山口からここまで何かあってもどうしようもない。更には厚い雲がどんどん流れてくる。そして雨がポツポツと降り出してきた。予測はしていたが、もうちょっと待ってくれよって思いながらも、何とか太郎平小屋に到着。まずはザックを下ろす。
平日のせいか、はたまたこんな時間のせいか、人がいない。小屋の中に入り、登山届を渡す。ここが有名な太郎兵衛平。ここからは黒部五郎岳が見えるはずだが、厚い雲に隠れて稜線は見えない。肝心の薬師岳を見ると、こちらもほとんどがガスに隠れて姿すら見えず。まあ、今日の予報は悪天候だったため、出発時の満天の星空や三日月と明けの明星を見た時は多少は期待を持たせるものであったが、案の定悪いことはよく当たるもんだ。
太郎兵衛平にある太郎平小屋。ここは折立から入山すると必ず通るところだ。ここから南へは北ノ俣岳、黒部五郎岳へ、東へは薬師沢小屋を経て雲ノ平、北へは薬師岳へとルートが分かれるいわゆる分岐点にもなっている。それなりに立ち寄る人も多い。
こちらは薬師沢方面。正面の山々から厚い雲が風に流されてくる。
薬師岳はほぼ雲の中。この先レイン着ることになるのかな?