雪倉岳~朝日岳一日目 ~鉱山道のうまい水~
昨日の忘れもの
今年もやってきた夏の北アルプス。これまで歩いてきた山を振り返る。
2010年 槍ヶ岳
2011年 奥穂高岳
2012年 穂高縦走(西穂高岳~ジャンダルム~奥穂高岳)、常念岳~蝶ヶ岳周回
2013年 黒部五郎岳、槍穂縦走(槍ヶ岳~大キレット~北穂高岳~奥穂高岳~前穂高岳)
2014年 笠ヶ岳、裏銀座~水晶岳(槍ヶ岳~双六岳~鷲羽岳~雲ノ平~水晶岳)
2015年 奥黒部周回(薬師岳~黒部湖~赤牛岳~高天ヶ原)
2016年 霞沢岳、後立山縦走(扇沢~鹿島槍ヶ岳~白馬岳~雪倉岳~栂池)
そう、あの思い出深いジャンダルムを越えたのは5年も前のこと。とは言っても昔を振り返るような歳じゃあない。
思えば槍や穂高の北アルプス南部からどんどん北上し、昨年は扇沢から入山してゴタテ(後立山のことね)をひたすら北へ。白馬岳を過ぎ、雪倉岳で引き返した。最北の雪倉岳の山頂は日の出前でまだ真っ暗。そして更にその北には朝日岳と道は続いている。そう、今年はここからの続き。雪倉から朝日、そしてその先へ先へと行き着く所まで。昨日の忘れ物を取りに行かねば。
雪倉岳へは昨年のルートとは逆に栂池から白馬大池、小蓮華山を経て三国境へと続く道があるが、休暇日数も限られるし、途中で宿泊できるところというと白馬大池山荘しかない。となるとちょっと中途半端だ。そこで昨年通り過ぎた鉱山道が頭に浮かぶ。三国境から雪倉岳に向かう途中、蓮華温泉につながる鉱山道の分岐があった。この鉱山道は名前の如く、かつて鉱山だった作業所に通じる道であり、途中に事務所跡や精錬所跡があるそうだ。ただ、あくまでメインルートは白馬岳からの道であり、わざわざ鉱山道を歩いて稜線ルートに出る人はほとんどいないとのこと。
今回は蓮華温泉からこの古い道を辿り、雪倉岳から朝日岳を目指す。水平距離約20kmでアップダウンもあり、かつ途中でエスケープする所もない。いつもの如く、気を引き締めていこう。
自宅を前日に出発し、東海北陸道をひたすら富山に向かう。富山に入ると眼前に剱岳の勇姿。いつかはあそこにも登らなくては。新潟に入り、親不知ICで高速を降りる。そのまま一般道を走り糸魚川の街へ。
糸魚川に入ったところで昼食を取り、先日止まっていた腕時計の電池をホームセンターで交換してもらう。そして国道148号線を南下、JR平岩駅から蓮華温泉を目指してカーブの多い坂道をひたすら上っていく。標高が高くなるに連れてたまにガスが出てくるが、天気はどうだろうか。
ようやく蓮華温泉の駐車場に着いた。こんな山の中を訪れる人は登山者くらいかと思ったら、何と駐車場はほぼ満車。うまい具合に一番端が空いていたのでここに車を置く。標高は1,470mほど。8月下旬とはいえさすがに肌寒い。どうやら蓮華温泉は人気があるらしく、温泉だけを楽しみにたくさんの人が来ている。そのせいか、地元らしき軽自動車やバイクなど出入りが多い。一応路線バスもあるが、8月下旬は既に夏山シーズンは終了のようで本数も極端に少なくなる。確かこの路線は金、土、日曜日しか運行しなかったっけ。ちょうどバスが発車する時刻なので見ていたら、ガイドのメガネを掛けたお姉さんに「バスはこちらですよ」と声を掛けられた。
夕方になるとロッジの方から大きなザックを背負った登山者が駐車場に向かって歩いてくる。ここからは白馬大池を経て白馬岳への拠点ともなっているらしい。
駐車場からすぐ先の白馬蓮華温泉ロッジへと歩いてみる。ここから朝日岳へのルートが続いているんだ。
蓮華温泉の駐車場。たまたま一番端が空いていた。前の軽自動車はしぶしぶここに停めたのだろう。
駐車場から少し歩くと白馬蓮華温泉ロッジ。
今日は日曜日ということもあって温泉客も多いようだ。
この先を歩いていくと朝日岳登山口だ。
ロッジの裏は白馬大池から白馬岳への登山口。
登山届忘れてしまったので現地で記載して投函。
駐車場の隣には立派な公衆トイレが有り、登山届を入れるボックスがある。せっかくあらかじめ登山届を作成していたのだけどすっかり忘れてきてしまったので、改めて登山届を記入してボックスに投函。
今日のスタートは深夜だ。明るいうちにお腹を満たし、横になって少しでも睡眠を取っておく。
先に白状してしまうが、出発したのは午前1時。それから暗い中をヘッデンを点けながら歩いて行く。途中分岐があるが、常に左に行けばいいはず・・・しかしそれが落とし穴だった。朝日岳、キャンプ場の看板を左へ歩いていくと、だだっ広いキャンプ場に出た。わずかな踏み跡を辿っていくと・・・道が無い!! あちらへ行ったりこちらへ行ったり、挙げ句の果てにはロッジ近くまで戻り、地図で確認する。ここで1時間をロスし、結局は最初のキャンプ場の看板のところで右折し、木道を歩いて行く。
実際は午前1時にスタート。しかし1時間もロスしてしまう。
ここが問題の看板。キャンプ場へ入ってはいけなかったんだ。結局スタートは1時間遅れ。
こちらは五輪尾根ルートかな。ま、今回はしょうがないか、と思いながらしばらく濡れて滑りやすい木道を歩いていくと・・・
あれ? 鉱山道分岐だ!! 何と今歩いているところが予定していたルートだった。相変わらず予習不足で全くダメダメ。出発早々出鼻をくじかれたが、結果オーライか。
今回は獣、特に熊との遭遇を避けるため、鈴を2個持ってきた。真っ暗な鉱山道に「ジャランジャラン」、「チリーンチリーン」と異なる音が響く。道は思ったほど荒れてはいない。踏み跡もはっきりしているが所々木道が続いていて、表面が濡れているとツルツル滑って危険だ。
間もなく分岐が現れた。右へ行くとカモシカ展望台らしい。真っ暗な中、展望台からは何も見えないし、何よりも寄り道している時間はない。ここはスルーして先へ進む。道はフラットかちょい下り。徐々に沢の音が大きくなってきた。とともに、足下もザレてきた。ここで右の谷に滑ると一環の終わり。慎重に一歩一歩気をつけて下っていく。すると目の前に鉄棒で作られた橋が現れた。ここが瀬戸川に架かる橋。蓮華温泉から雪倉岳や朝日岳に向かうには必ず瀬戸川を渡るために一旦下らなければならない。そして橋を渡ったところから本格的な急登が始まる。
ヘッデンで指導標を照らす。雪倉岳登山道と書かれているのでここが鉱山道分岐だ。
一方は兵馬ノ平経由で五輪尾根への道。
しばらく歩くと「蓮華鉱山道」の標識があり安心する。
カモシカ展望台への分岐。何も見えないので展望台はパス。
雪倉岳まで5時間・・・遠いな~。
ようやくたどり着いた瀬戸川に架かる仮設の橋。増水時には流されることもあるとか。
橋は木の網状の鉄板が二枚乗せてあるだけ。
古びた瀬戸川の標識。
こちらも古びた中部山岳国立公園と書かれた標識。
瀬戸川出合から雪倉岳への登山道分岐まで実に標高差1,000mちょっとを登らなくてはいけない。しかしなかなか鉱山事務所跡に着かない。辺りが明るくなってきた。時刻は5時を過ぎたところ。ちょうど日の出の頃だ。左に小さな池塘が現れた。後から調べてみると、ここが神ノ田圃らしい。ということは、既に鉱山事務所後は過ぎたことになる。すると先ほどちょっとした広場のようになっていたところが事務所跡か。標識を見落としていたようだ。
しかしなぁ・・・暗い中を歩くと休憩のタイミングを見つけるのが難しい。出発から1時間迷い、そのまま歩いてきたもんだからいきなり体にガタが出てきたようだ。
早朝の神ノ田圃。一部では人気があるとのことだが、鉱山道自体あまり歩かれないので訪れる人は少ない。
すっかり辺りは明るくなった。辺りを見渡すときれいな花が群生して咲いている。左側は深い鉢ヶ沢。そして沢の底にはまだ雪渓が残っている。そういえば昨シーズンの冬は雪が多かったそうだ。その前のシーズンは雪が少なくて白馬の大雪渓が通行止めになったっけ。
しかし瀬戸川を過ぎてからはひたすら登り。鉱山道と言ってもなかなかその歴史を味わえないでいる。と、右手に標識。「比丘尼飯場(びくにはんば)」と書かれている。比丘尼とは出家した女性、つまりは尼僧だ。尼僧の飯場とは何だろう? ここで修行したのだろうか? 鉱山との関係は? どうやら江戸時代に蓮華鉱山の現場へ比丘尼(一種の遊女)を入れたものとの説もあるそうだ。こんな奥深い山の中、いろいろ訳ありがあってもおかしくない。
鉱夫もこの山の景色を見ながら掘り続けたのだろうか。
鉢ヶ沢に残る雪渓。
かなり大きな雪渓だ。やはり地熱で地面側がぽっかり。
ハクサンシャジャンの花。ツリガネニンジンの高山植物版といったところ。
よくよく見ると高山植物があちこちで花を咲かせている。
「比丘尼飯場」の標識。歴史を感じさせる。
それにしても本当に静かな山だ。時間的なこともあるが、聞こえるのは沢の音と鳥のさえずりのみ。そして辺りは高山植物が群生して花を咲かせている。う~ん・・・こんな道があまり歩かれていないなんてちょっと不思議だ。人気のあるゴタテの主稜線とは雰囲気が全く違う。
行く手に小さな沢が横切っている。
沢の水は鉢ヶ沢へと流れていく。
この上に雪渓でもあるのだろうか、水量は多い。手を入れてみるが、やはり冷たくて気持ちがいい。水量が増した時はちょっと危険かも。
違う角度から鉢ヶ沢の雪渓。8月末でもかなり残っている。
エゾノレイジンソウとモミジカラマツの花。あちこちに咲いている。