槍穂縦走 三日目 ~終わりよければ~
吊尾根を行く
あ、やばい。隣で寝ていた京都からの若者を起こしてしまった。時刻は深夜2時。今日の出発は3時。1時間前には体を起こしておかねばならない。彼は今日は白出沢から新穂高へ下りていくはずなので、布団は使っていいよと告げて出発の準備をするために部屋の外に出る。
今日は槍穂縦走3日間の最終日。外に出ると星が見える。風もほとんどない。これは絶好のコンディションだ。
昨年はほぼ同時刻に出発し、奥穂から前穂を目指したのだが、強風と突然降り出した雨のために南陵ノ頭を過ぎた鎖場で引き返すことになった。山荘に戻った途端に雨は強くなり、レインを着て白出沢を下山したのである。
予定どおり3時に穂高岳山荘を出発。暗闇の中奥穂高岳を登る。何度登っても明るいのと暗いのでは勝手が違う。ヘッデンでペンキマークを追いながら登っていく。山頂についても辺りは真っ暗。ここから吊尾根だ。昨年のリベンジ、いや倍返しになるか
穂高岳山荘を出発。暗いので慎重に。
奥穂山頂に到着。当然ながら真っ暗。昨日登っておいてよかった。
次は吊尾根を経て前穂だ。
南陵ノ頭に来た。指導標がないとわからない。
南陵ノ頭から先の鎖場。昨年はここで引き返した。
南陵ノ頭よりちょっと先までは昨年歩いた。今回同様真っ暗だったが、意外にもルートの状況は覚えているもんだ。しかし一歩踏み外すと涸沢や岳沢に落ちていってしまうので慎重にルートを見極めて進む。
やがて南陵ノ頭に到着した。指導標がないと通り過ぎてしまうかもしれない。ここから先、鎖場の下りだ。昨年は途中まで下ったところで強風に加えて雨が降り出し、引き返しを決めた。今回は気を付けて下る。
更に長い鎖場が現れた。うーん、やはり昨年引き返したのは大正解だ。ルートは時には岳沢側、時には涸沢側に入れ替わりながら前穂方面に延びている。かろうじて前穂のシルエットが彼方に見えるが、なかなか近づかない。
ルートは尾根から岳沢側へ少し下ったところに続いている。てっきり吊尾根上をひたすら歩くのかと思ったら、そうでもなさそうだ。暗闇の中、吊尾根の最低コルに向けて緩やかに下っていく。目の前の岩を巻いて下り、また巻いて下りを繰り返すが、辺りが暗いせいかなかなか前穂が近づいてこない。標準タイムでは奥穂から紀美子平まで約1時間40分。時間的にはまだまだだな。
ようやく最低コルを過ぎたのか、緩い登りになるとともにルートは前穂を右へ巻くようにカーブしている。少しずつ空が明るくなってきた。そろそろヘッデンは要らないかな、と思った時、目の前に「↑前ホ」と書かれてある岩が現れる。その先には紀美子平の指導標だ。奥穂から約1時間半。慎重にゆっくり歩いてきたのでほぼ標準タイムどおりだ。
今日の日の出時刻は5時40分。ちょっと御来光には間に合わないが、日の出直前でもいいので休むことなく前穂に向けて岩場を登る。しかし、これが甘かった。前穂は女性的な山というイメージを持っていたが、実際は全く逆。所々急な岩場を登っていくという、男性的な山だ。もうすぐ山頂だろうかと思った途端、頭の上が一瞬で「赤く」なった。どうやら日の出のようだ。ちょっと残念だが、山頂まであと少し。
「前ホ」と書かれてある岩。紀美子平に着いたようだ。
紀美子平の指導標。空はかなり明るい。休むことなく前穂高岳山頂に向けて登る。
こ、こんな急な登りだったとは・・・。前穂恐るべし。
こちらは西側なのでここを登りきらないと日の出は見られないよ。
一瞬にして頭上が赤くなった。奥穂側を見ると朝日に照らされて山が赤くなっている。
前穂高岳山頂からの日の出。昨年のリベンジどころか倍々返しだ!!
日の出から数分遅れで山頂に着いた。まさにちょうど日が昇ったところ。これまたこの時間にこの場所にいないと味わえない光景だ。昨日の大キレットからの日の出も素晴らしかったが、今日の前穂からの日の出もまた格別だ。
それにしても今回は運が良すぎる。3日間素晴らしい天気に感謝。
こんな時間に山頂には自分一人・・・と思ったら先客がいた。とはいっても山頂にはツェルト。二人の若者がビバークしていたようだ。聞けば今日は明神岳に行くらしい。なるほど、ここでビバークするのが最適だ。
前穂高岳山頂には三角点があるらしい。そういえば奥穂、北穂、西穂と登ったけど三角点には巡り会えなかったな。
山頂は思った以上に広く、細長い。ここでも360°の絶景だ。特に奥穂から西穂へ続く稜線はこの方向から見るのは初めて。朝日に照らされてこれまた格別の景色。
でもってこれも絶景の写真を次頁で楽しんでください。
朝日に照らされる前穂高岳。今回最後の3,000m峰8座目前穂高岳(3,090.2m)制覇だ。これぞ槍穂縦走の醍醐味。