槍穂縦走

槍穂縦走 一日目 ~槍、再び~

スタートの頂へ

「切戸」と書いて「キレット」と読む。とりわけ北アルプス南部の南岳と北穂高岳間の大キレットは難所として有名だ。初めて大キレットを見たのは登山を始めた年の9年前。木村さんと登った銚子ヶ峰から秋の澄んだ青空の中に浮かんだ山々。夢中でデジカメのシャッターを切っていたが、当時はどれがどの山かわからない。自宅で改めて写真を見てみると、特徴ある形状の槍ヶ岳だけはすぐわかった。その右手にはまさに「切れ落ちて」いる大キレット。スゲー所だと思ったものだった。

槍穂縦走

昨年は西穂高岳からジャンダルムを経て奥穂高岳への縦走を敢行した。北アルプスの中でも難所といわれるこのルートは挑戦する前に槍ヶ岳から奥穂高岳までの縦走を体験した上で、と言われることがある。ちょっと順番が逆になってしまったが、今年は槍ヶ岳から大キレットを経て北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳を経由し、昨年悪天候で断念した前穂高岳から上高地へ下りていくルートでいく。3,000m級8座を巡る長丁場だ。

他の人がお盆休みのときは出勤してみっちり仕事。混雑するお盆と9月の連休の谷間を狙って夏休みをもらい、山に登る。本当はじっくりと山に隠りたいのだが、仕事をしている身では長期にわたって休むこともできない。このようにピンポイントで日程調整をする際に心配なのが天気だ。9月に入る一週間前はいい天気なのだが、長期予報ではちょっと微妙な模様。可能な限り日程をスライドさせ、スマホで随時天気をチェックしながら登山口の新穂高へ向かう。
新穂高の無料駐車場は平日ともあって余裕で駐車できる。天気も何とか大丈夫なようだ。今日は車中泊で明日早朝に槍ヶ岳を目指す。しかし夕方になり辺りが暗くなってくると、とうとうポツポツと降り出してきた。まあ、明日は何とかスタートである槍ヶ岳に行けばよい。
雨はだんだんと激しくなってきた。辺りは既に真っ暗。ちょっと心配になって天気予報を確認すると、何と明日の降水確率は40%だったのが一気に100%!! こりゃダメだ・・・。てな訳で登山口に立つどころかザックを担ぐこともなく、今回はあきらめ。途中の道の駅で上司に登山中止の連絡をすると、岐阜市や大垣市ではゲリラ豪雨で鉄道も止まっているとか。飛騨は強い雨でしかなかったが、場所によってはエライことになっているらしい。雨の中慎重にせせらぎ街道を自宅に向けて運転する。


  

帰ってから天気予報の降水確率を確認してみると・・・40%? どうやら数時間で予報がコロコロ変わったらしい。何とも恨めしい予報だ。
「登らないのも登山」と自分に言い聞かせてはみたものの、その後の天気の回復を考えると悔やんでも悔やみきれない。グダグダの天気予報を恨みつつ、今年の夏休みは何をする訳でもなく、ボーっとして終わってしまった。

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平湯温泉から笠ヶ岳。ちょっと風が強い。

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上宝の道の駅から焼岳。昼間はいい天気だったのだが・・・。


ここ3年天気には恵まれていたものの、今年は山の神様も味方してくれなかったのだろうか。しかし空とケンカしてもしょうがない。このままでは終われないということで、9月の最終週に無理言って一日休みをもらい、2泊3日で再チャレンジすることにする。多少天気が崩れても無理しない範囲で敢行だ。要は天気にかかわらず山を楽しめばいいのだ。改めて気を引き締めつつ、仕事が終わると同時に速攻で新穂高に再度向かう。

前置きが長くなってしまったが、この一週間前に飛越トンネルから飛越新道、神岡新道で黒部五郎岳に日帰りでピストンしている。かなり苦しい山行だったが、山頂から見た槍穂の稜線は圧巻そのもの。今回縦走する8座がすべて見える。一週間後にあの切れ落ちた所を歩けるのだろうか・・・。

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さて、槍穂縦走の最初の目的地は槍ヶ岳。今回は槍から穂高へ南下する。槍ヶ岳に初めて登ったのは3年前。日帰りで真っ暗な中、右俣林道を歩き、残暑でバテバテになりながらも新穂高まで帰ってきた。今回はスタート地点となるので、明るいうちに槍ヶ岳山荘に到着すればよい。しかし槍は午後からガスが出ることが多いので、お昼頃には着きたいところだ。
いつものとおり登山届けをポストに入れ、ヘッデンを点けて右俣林道を歩く。暗いので穂高平へのショートカットのルートは敢えてパス。3日間も歩き通さなくてはならないので、はやる気持ちを抑えつつゆっくり歩く。のんびり歩くこと1時間50分で白出沢出合に到着。なんと休憩スポットが設けられているよ。

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早朝3時ちょっと前に駐車場を出発。今日の目的地は槍だ。

  
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右俣と左俣を示す看板。ここが出発点。

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既に準備した登山届をポストへ。無事に戻ることを祈って。

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暗い林道を歩いて白出沢出合手前の看板に到着。奥穂への分岐点でもある。

  

小休止していると新穂高方面から鈴の音が聞こえてきた。まさかとは思ったが、一人の年輩の男性が歩いてきた。恐らく目的地は同じだろう。男性は先に白出沢を渡っていった。
白出沢には鉄製の橋が架けられていた。3年前、暗闇に浮かんだ白出沢に一瞬足がすくんでしまったのが懐かしいな。日の出にはまだまだ早い。この先慎重に行こう。

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どうやら工事現場の人の休憩場所でもあるようだ。ありがたいね。

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白出沢に架かる鉄製の橋。本格的な登山道はここから。


暗い道を気をつけながら進んでいくと、先ほど白出沢を先に渡っていった男性に追いついた。先に行かせてもらい、まずは滝谷出合を目指す。辺りはだんだんと明るくなってきた。急登とは言えないまでの坂を登りきると小さな滝谷避難小屋が目の前に現れた。確か前回は往きでは真っ暗な中で休憩したっけ。
滝谷に架かる橋は今年は何回か流されてしまい、無理に渡ろうとした男性が流されて亡くなったそうだ。槍平小屋によると、先週新しい橋が架けられたとのこと。感謝ですね。

  

今朝はかなり冷え込んだそうだが、ここでパーカーの下に着ていたフリースを脱ぐ。さすがにちょっと肌寒いが、フリースを来てるとちょっと暑い。歩き始めれば大丈夫だろう。

今日は滝谷ドームがはっきりと見えるね。稜線にできたコブみたいだ。

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ブドウ谷、チビ谷と小さな沢を渡る。増水の心配は無し。

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空が明るくなってきた。まだ標高が低いから笠は見えないか。   

  
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滝谷避難小屋が見えてきた。避難小屋には入らず、休憩は沢で。

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先週架けられた橋はちょっと下流にある。

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ここでフリースを脱ぐ。冷え込んだ割には歩くと暑い。

  
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滝谷の上流には雄滝、その上部には独特の形をした滝谷ドームが見える。明日はあそこの涸沢側を巻いていくんだね。

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こちらから見ると形がジャンダルムに似ているので間違える人も多いようだ。

  

滝谷を過ぎると右手に藤木レリーフ。次の休憩ポイントは槍平小屋だ。緩やかなアップダウンを進む。やはりフリースを脱いでも問題はないようだ。南沢に差し掛かると槍平小屋は目と鼻の先。振り返ると滝谷ドームの右手には朝日に照らされる涸沢岳。あそこにも明日登るんだな。

槍平小屋手前で前方に黒い影が見えた。岩や木ではなく、どうやら動いている。目が悪いので最初は何かわからなかったけど、黒い影は草むらに隠れていった。どうやら熊だったらしい。鈴を大きめに鳴らしながら知らんぷりしてそそくさと立ち去る。こんな小屋近くにも出るんだな・・・。いや、いてもおかしくはないか。

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藤木レリーフ。山の中にひっそりとある。

  
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滝谷ドームと涸沢岳。涸沢岳は穂高岳山荘からいつも見てたけど、明日はあそこまで登る。

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南沢を渡る。槍平小屋はもうすぐだ。


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