槍ヶ岳

槍ヶ岳 ~翼よ、あれが槍の穂先だ~

深夜の槍への道

思えば7年前に木村さんと登山を始めたとき、まさか自分がアルプスまで来るとは思ってもみなかった。幸いなことに東海地区在住の我々にとって槍穂高は全国からみれば目と鼻の先にあると言ってもいい。これまでいろいろな山に登ってはみたが、槍・穂高連峰が見える度にいつかはあそこへ、いや、行けるかな? といった思いばかりだった。
遠くから見る槍穂高はその独特の険しい形からすぐわかる。とりわけ槍ヶ岳はご存じの通り、天空を貫くかの如く鋭く尖った形状をしているので、天気が良ければ「あ、槍だ!」と声をあげるほど登山者にとっては親しみ深い。

前回、常念岳登山は途中断念。木村さんがしばらく養生するので、ちょっとブランクの期間がありそう。今年の夏は残暑が厳しいが、この天気の良さは絶好の登山の機会。ちょっと遅い夏休みをいただき、北アルプスへの登山を敢行することにした。

しかしなぜ槍? なぜ日帰り?

場所からすれば奥穂高岳かな? といきたいところだけど、あまりコースタイムも変わらないし、一度北アルプスの尖った山に行ってみたいと思い、今回は槍ヶ岳とした。

普通槍ヶ岳登山は新穂高からの飛騨沢ルートなら2泊3日、若しくは1泊2日がほとんど。そういえば笠ヶ岳も木村さんと一緒に日帰りで登ったっけ。あとからわかったのだが、笠新道は北アルプス三大急登のひとつだそうだ。確かに杓子平、稜線までの登りはきつかった。
特に日帰りということにこだわりはない。自分の体力に自信がある訳でもないが、自分を試してみたいということもあったし、勿論ダメだとわかった時点で宿泊するための準備もしておいた

ルートは新穂高からの飛騨沢ルート。上高地からの槍沢ルートと異なり、登山者も少なく、静かな山歩きが楽しめるとのこと。コースタイムから往き10時間、帰り8時間を見越しておくが、状況に応じてすぐに断念し、山小屋に泊まれるようにしておく。夕方に戻るようにすれば深夜に出発ということになるなあ。

ここで今回の課題。ひとつひとつクリアしていこう。

(1) 2時間ほどの林道歩きの後、白出沢を渡ることができるか。
(2) 飛騨乗越への急登を登ることができるか。
(3) 槍の穂先へ難なく登ることができるか。

新穂高の河川敷の無料駐車場に車を停める。平日とあって7~8割程しか車がない。深夜23:30に準備をして出発地点の新穂高登山指導センターに向かう。センター前であらかじめ記載しておいた登山届をポストに入れる。センターの周りには行方不明者や最近の遭難事故の事例を書いたものが貼ってある。すべて目を通し、改めて気を引き締める。大事なのは山頂へ到達することでなく、無事に戻ってくることなのだ。

日付が変わる0時ジャスト。センターを出発。ここから白出沢まで延々と真っ暗な林道歩きとなる。

  
槍ヶ岳

登山指導センター。ここで登山届を出す。相変わらず登山届を出さずに山に入る者も多いらしい。

槍ヶ岳

平日のこんな時間に登る者はいない。下調べはしっかりしたが、如何せん初めての山。

槍ヶ岳

0時ジャスト。ここから右俣林道を白出沢に向けて2時間近く歩く。


新穂高ロープウェイの駅でちょっと迷う。危うく左俣へ川を渡ってしまうところだった。ロープウェイ奥の有料駐車場左に伸びる道が右俣林道。頭にLEDヘッドライトを点けているが、もう一つ懐中電灯を手に持ちながら進む。林道は緩やかな登りだが、フラットな広い道。どうやら工事車両も通るらしい。しばらく進むと仮歩道が現れた。近道の標識に従って進むとアルミ板で組まれた階段となる。階段よりも普通に道を歩いた方が楽なのだが、とりあえず近道ということなので。階段は再度林道に合流。真っ暗な道をひたすら進む。路肩にある看板は工事用のものばかり。

1時間ほど歩いただろうか。目の前に大きな建物が現れた。穂高平小屋に到着したようだ。記録の写真を撮ろうとカメラを向けたら、小屋の電灯が点いた。もしかしたら宿泊客が来たと思われたのかもしれない。迷惑となってもいけないので、先を急ぐことにする。相変わらず真っ暗で何もない。
疲れるため何も考えずにひたすら前に進むことだけに集中。すると右手に奥穂高岳への登山口が見えてきた。すぐ先に白出小屋があるとのことだが現在は撤去されているそうだ。さて、第一の課題である白出沢の渡り。奥穂高岳登山口から少し進むと周りが開けた。左には重機が置かれている。真っ暗でよく見えないが、明かりを向けてギョッとしてしまった。辺り一面大きな石だらけ。こんなところを渡るのか? 真っ暗な沢は異常なまでに怖い。再度辺りを見回すと、登山者を誘導する大きな看板があった。これに従うのだが、どちらへ行けばいいのかわからない。よくよく見渡すと赤い印の付いた棒きれが立っている。これに向かい、次の印を探しながら沢を渡る。向こう岸に登山道らしきものが見えたときはさすがにホッとした。恐らく昼間は何ともない景色であろうが(実際、下りはどうってことなかった)、暗闇の沢は異常なまでに怖かった。

  
槍ヶ岳

「近道」の標識。このあと林道からちょっと外れ、階段を上る。

槍ヶ岳

穂高平小屋に到着。真っ暗なので写真ブレまくり。

槍ヶ岳

白出沢出合手前に奥穂高岳への登山口がある。かつてはこの先に白出小屋があったそうな。

  
槍ヶ岳

槍平、槍ヶ岳はこの先の白出沢を渡る。ここまで自転車で来る者もいるそうだが、林道は軽車両乗り入れ禁止。ルールは守ってほしい。

槍ヶ岳

白出沢を無事渡った。ちょっと心を落ち着かせる。それにしても真っ暗な沢は怖い。道はここから本格的な登山道となる。

槍ヶ岳

滝谷避難小屋を経て4時頃に槍平小屋に到着。まだ辺りは暗い。順調ではあるが、実は思った以上に体力を使っていた。


白出沢を渡ると道は狭くなり、ここから本格的な登山道となる。しかし暗闇の中の狭い登山道は非常に危険。しっかりと足元を照らしながら進む。特に急登ではないので足は進むが、頭になかった問題が出てきた。そう、獣との遭遇である。たまに草むらから「ガサガサッ」と音がしたり、恐らく空耳だったと思うが、一瞬うめき声も聞こえたような・・・。こんな暗い道で立ち止まる訳にもいかない。聞こえるのは沢の音のみ。しばらくすると滝谷避難小屋が見えてきた。
滝谷避難小屋も誰もいない。小屋の中には焚き火の跡がある。ここで初めてザックを降ろして小休止。明かりで再度ルートと時間の確認をする。あまりゆっくりもしていられないので、すぐに出発。滝谷はこのルートで唯一水が流れている沢であるが、板の橋が架かっているので大丈夫。白出沢の時と同様に、印を探しながら沢を渡る。渡った右手に藤木レリーフが現れた。写真は帰りに撮ることにしよう。次は槍平小屋が目標。

延々と暗闇の中を歩く。そろそろ槍平小屋に着く頃だが・・・。足元をよくよく見ると明らかに人によって整備されたような路面になってきた。左手前方に大きな建物が現れた。ようやく槍平小屋に到着。ここで再度ザックを降ろす。トイレの臭いだろうか、辺りはアンモニア臭が漂っているが、じきに鼻が慣れてしまった。ここは槍を目指す登山者の拠点となっている。ここでもあまりゆっくりしていられないので、軽く体操をして再度ザックを担ぐ。先にはテン場もあり、トイレに起きたのだろうか、一人の男性とすれ違った。ここでちょっと寒気を感じたのでウインドブレーカーを着る。ここまで順調に来たように思えるが、先へ進む毎に思った以上に体力を使っていたことがわかった。


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